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サファイアとデッド

2009.09.29 Tuesday

ウィリアム・サファイアが亡くなった。
ニクソンのスピーチライターを務めるようなゴリゴリの保守派論客だった。
でも彼がニューヨーク・タイムス日曜版に連載していた「言葉について」のコラムは(ごくたまに読んだだけだったけど)とても勉強になった。

"dead reckoning" という言葉の素敵な意味を教えてくれたのもサファイアだった。
デッド・レコニングとは「船や自動車などが、スピード、方向、距離などを総合して、自分の位置を知るための方法」と辞書に書かれている。

もともとこの言葉は、昔、船が航海中に羅針盤が壊れるなどして、海図上の現在地点を把握できなくなったとき、動力装置をすべて停止(dead)状態にして船を漂流させ、風向きや潮の流れや星の位置などから船の現在位置を推算(reckoning)していたことに由来している、とサファイアは書いていた。
 


グレイトフル・デッドが81年に出した2枚組のアルバム名を"グレイトフル・デッド・レコニング" としたのは、時期的にもサファイアのコラムを参考にしたものだとぼくは確信している。

デッドは78年にやったエジプトでのフリーコンサートのライヴ盤を実現できず、経済的にひどく困窮していた。その年の暮れにはバンドの本拠地ウィンターランドが閉鎖された。79年にはダナ&キース・ゴッドショーがバンドから脱退した。
80年に出したアルバム"Go To Heaven"(ジャケット写真はメンバー全員が白いスーツ姿で立っている!)はあまりにポップな曲ばかりが収録されているとして「商業主義的だ」という批判を受けたりもした。
そしてその数カ月後に、キース・ゴッドショーが交通事故で他界している。

そんな80年の終わりに、25回にもわたってデッドがアコースティック・ライヴをやったこと。電気プラグを抜いて、デッド以前の「原点」に戻ってみようとしたこと。
これは「漂流」していたバンドが、現在地点を確認しようとしてやったことに違いない。
彼らの確認作業のおかげで"Reckoning" という、とてつもなく美しいアルバムがぼくたちの手許に残されたわけだ。

わからなくなったら「漂流」してみること。
そんなことをぼくに教えてくれたウィリアム・サファイアもグレイトフル・デッドもいなくなってしまった。

柿(パーシモン)

2009.09.28 Monday

例年よりいくらか早く柿が色づきはじめた。
ここの柿は夏場暑ければ暑いほど、甘みを増す。
今年は冷夏だったので、甘みは期待できないかも知れないな。

柿をテーマにした映画を撮りたい、と何年も前から考えているのだけど、実現していない。企画を頭の中であたためているだけでは、いつまでたっても映画化されないだろうから、ここに簡単なストーリーを書いておきたい。
『アタック・オブ・ザ・キラーパーシモン』というのが、映画のタイトルだ。



隣家の庭に大きな柿の木がある。
その木から大きな柿の実が落ちてくる。
柿は家を訪ねてきた客たちに襲いかかる。
男であれ女であれ
大人であれ子どもであれ
客という客に殺人柿が襲いかかって
ムシャムシャと食べてしまう。
屋根に逃げても追いかけてくるし
池に逃げても追ってくる。
戦慄の恐怖映画が終わりに近づいたころ
画面いっぱいに、日本の格言が現れる。

「隣りの柿は、よく客食う柿だ」

:-)




『アタック・オブ・ザ・キラーパーシモン』
の発想のヒントになったと思われる映画
『アタック・オブ・ザ・キラートマト』(1978)のポスター。






手塚治虫の著者検印

2009.09.25 Friday

姉が母の遺品を整理していて、その中に一冊の本を見つけて届けてくれた。
ぼくの子ども時代の愛読書だ。
手塚治虫『鉄腕アトム』の単行本第一巻。背は少し傷んでいるけど、ハードカバーなので今でも十分に体裁を保っている。
繰り返し繰り返し読んでいたから、まだ幼くて脳細胞もやわらかかったぼくに大きな影響を与えた本に違いない。

奥付ページだけがちょっと破けているが情報は読みとれる。
昭和31年6月1日に初版発行。その約1年後に出た第7版を入手したようだ。定価150円。
当時のぼくのお小遣い半月分だね。
まだ「著者検印制度」があった時代だったので、手塚治虫さんの「虫」の字のハンコが押されている。
             ぼくが出版の仕事に携わりだした頃には「検印制度」はすでに廃止されていた。
昔を知っている出版社の人たちから「検印制度」時代の話は何度も聞いた。

一冊一冊にこれを貼るのがいかに大変だったか。朱肉が対抗ページにうつらないように苦労したこと、などなど。

そんなふうに「検印制度」を廃止した理由はいろいろ教えてもらった。
でも、そんな面倒で厄介な制度がそもそもどうして始まったのか、という理由は誰も教えてくれなかったな。

  :-)





ジャイナ教徒のように

2009.09.22 Tuesday

地球の生き物の75%は昆虫だと言われている。
虫たちはこの星で生存するのに一番適していて、一番成功した連中だ。
こんな小さな森にいても、おびただしい数と種類の虫たちに囲まれてぼくたちが暮らしていることは、いつも実感している。

朝晩が冷えこんできたこの季節、ふだんあまり見かけない虫たちが家の中にちらほらいるのを見かけるようになる。寒がりの虫たちが暖を求めて、どこかの隙間からもぐりこんでくるのだ。大量に侵入してくるのなら対策を講じなきゃいけないけど、数も知れてるので気にしない。
けっして可愛くも愛らしくもない連中だけど、ぼくはスリッパを持って追いかけ回したりしないので、心なしかとてものんびり滞在しているように見える。

 
 

毎年毎年のことだし、あと少し寒い季節になったら連中はみんなどこかへ消えて行ってしまうのもわかっている。
秋のはじめのほんの短い期間、ぼくはまるでジャイナ教徒のような目で家の中にやってきた虫たちを眺めている :-)


曼珠沙華

2009.09.20 Sunday

前にmixiに曼珠沙華の満開写真をアップロードしたら、東北の人も九州の人も同時に満開写真を載せていて驚いたことがあった。
曼珠沙華って気温の高低に関係なく、日本中どこでも同じ時期に咲く花なんだね。
秋になって昼と夜の時間が同じくらいになると咲く花。だから彼岸花と呼ばれるようになったのだろう。
花が散ると、葉っぱだけの季節がくる。やがて葉っぱが枯れて、花だけが咲く。
他にない奇妙なサイクルで生きている植物だ。



ここの森は放っておくとすぐに竹薮が生い茂ってしまい、草刈りに苦労させられる。
何年か前、この森の長老であるDさんがあることに気がついた。
曼珠沙華が咲くあたりはなぜか薮が茂っていない、ということだ。
Dさんは曼珠沙華の球根を森の随所に移植してみた。そして移植先ではほんとうに薮ができなくなった。
曼珠沙華の根っこは人間には毒性があると言われる。
竹薮にとっても、毒なのかも知れない。

曼珠沙華。妖艶な美しさをもつ、謎めいた花だ。



スミス、八ツ場ダムへ行く

2009.09.18 Friday

深夜のCSで映画『スミス都へ行く』(1939)をやっていた。
巨大ダムの建設をめぐる政治腐敗に、青年ジェフ・スミス(ジェームス・ステュワート)が単身で闘いを挑んでいく話だ。
映画の最後にスミス氏が議会で長い長い演説をするのだけど、あの演説を聞いて政治家を志した人が昔は少なくなかったという話も聞いたことがある。

映画を観終えてひと眠りして、朝ニュースを見たら、新しく就任した国交大臣が八ツ場(やんば)ダムの建設を中止すると語っていた。

八ツ場ダムの建設予定地はぼくも3年前、車を走らせたことがある。
いずれ水没すると言われていた一帯を見たくて、草津への旅の途中に立ち寄ったのだ。

紅葉が始まろうとしていた美しい渓谷のあちこちに、巨大なコンクリートの建造物が工事中だった。山肌はあちこち削られてコンクリートの壁になっていた。
道路沿いの町はすでに人家が少なく、整地された空き地だらけ。
なんとも異様で不思議な大パノラマが広がっていた。

新しい大臣はダム建設を中止する前に今週末にでも八ツ場を訪ねると言っていた。
日本のスミス氏にお願いしたいことがある。
ダムは中止してもあの不思議なパノラマ風景だけは、現状のままで永久保存してほしい。
建築中の大コンクリートも半端なまま、20世紀の日本の巨大遺跡として残してほしい。
あの美しい渓谷は水没しなければずっと守られるだろうし、いい温泉も出る土地だ。
20世紀の日本を回顧できる場所として、多くの観光客を集めると思う。



秋刀魚の味

2009.09.15 Tuesday

古くからの友人である一家が来訪。
「一家」は「いっか」ではなく「かずや」と読む。つまり一家という名前の友人がやってきたのだ。
彼は若いころながくロンドンとニューヨークで暮らして、日本に帰ってきたら「この島は湿気が多すぎるから、湿気と闘う」と言って防水関係の仕事を始めて、成功させた。
慧眼だね :-)

もともと彼は岩手の出身なので、田舎から届く新鮮な海の幸を時々分けてくれる。
今回は秋の味、秋刀魚(さんま)を持って朝早くきてくれた。
やってくるなり一家はすぐ台所に入り、包丁を持った。
「新しい秋刀魚を刺身で食べてもらいたくて、急いできたんです」

一匹の秋刀魚を器用にさばいて、ていねいに骨を抜いて、刺身にしてくれた。
「うまいから、びっくりしますよ」


朝からビールを飲んで、秋刀魚の刺身を食べた。
ほんとうにびっくりするほどうまかった。
彼によると、北の海でプランクトンをたらふく食べた秋刀魚がこの季節に南下してくる。そして岩手沖あたりを通るときが「脂のノリ」が一番食べごろなのだそうだ。
(秋刀魚のみなさんは岩手沖を通過するときは、十分ご注意を)

ぼくはもともと光り物の刺身は苦手だったのだけど、秋刀魚がこんなにうまいものだとは知らなかった。
きっとこれまで「新鮮な、いい光り物」に出会ったことがなかったんだろうね。




ザラザラした異物感 2

2009.09.13 Sunday

 
海の底に、ある種の貝がいる。
ある日その貝の住まいである貝殻が開けられ、中にザラザラした物が放り込まれる。
不快な物を放り込まれても、貝はどうしようもない。狭い貝殻の中で、その異物といやいやでも共存していくしかないのだ。
そこで貝は一生懸命分泌物を出して、その異物をくるみ始める。
そうやって長い時間が過ぎると、異物は真珠に変わっていく。

ある種の芸術もそうだ。
ザラザラチクチクする不快な表現に出会うことがある。でも一度体験してしまったら、見なかったことにも聴かなかったことにもできない。自分の中に入ってき た異物と折り合いをつけて生きていくしかない。

そうやって時間をかけると、いつのまにか異物が自分の中で大きく美しい真珠に変わっていたりする。

ぼくにとってはヨーコの歌やジョンの絵がそうだった。ダリやピカソもそうだったし、ラモーンズもそうだった。
みんな今では宝石のように大切なものになっている。

                                               Photo by Mainichi Photos 1964


ザラザラした異物感

2009.09.09 Wednesday

洋服を着た男が仰向けに寝ていて、裸の女がしがみついている。どこかで見たような構図の写真だ。
そう、男と女を逆にして男を裸にすれば、ジョンとヨーコの あのよく知られた写真にそっくりだ。

『パープル』マガジンの秋号に載ったもの。パロディ写真? そうではなさそうだ。だって無精ヒゲを生やして写っている男は、ショーン・オノ・レノン。裸の女性は彼のガールフレンドでモデルのケンプ・マール。撮影者はテリー・リチャードソンとクレジットされている。

これを見た第一印象はなんとも「やな感じ」だった。ザラザラチクチクした異物をぶつけられたような感じがした。
ショーン、いったい何をしてるんだ!? 君の父さんが殺される直前に撮ったあの写真、父さんと母さんが最期に一緒に撮ったあの写真を批判してるの? 称賛してるの?
ショーンが何を考えているのかさっぱりわからず、こんな写真見なきゃよかったと思った。

でも考えてみると、ヨーコの「歌」をはじめて聴いたときも似たようなザラザラ気分を味わったし、ジョンの「性的なリトグラフ」をはじめて見たときも同じような異和感を抱いたものだ。そしてやがてヨーコの歌もジョンの絵も、大好きな作品になった。

ショーンも来月で34才。優しくて可愛くて素直な少年だったショーンが、人にザラザラの異物感を与えられるような大人になったのかも知れない。
力をえて、何かを始めているのかも知れない。



下の写真は、ぼくが1984年に翻訳出版したアニー・リーボヴィッツの写真集『アメリカの神々』の1ページ。

今日9月9日はビートルズのリマスターCDが出るとかで、世界中お祭り騒ぎだね。

和える

2009.09.05 Saturday

平和の和。和合の和。
和(なご)む。和(やわ)らぐ。和(あ)える。
「和」ってピースフルで穏やかな文字だね。
和子、和雄などという名前もある。
でもこれを「かず」と読む例を、人名以外にはどうしても思い出せない。
何かほかにあるのだろうか?

         

そんなことを思いながらビールを飲んで「和えもの」を食べた。
畑で採ったキュウリに、ワカメとカニカマボコを和えたもの。
ぼくが自分で作れる唯一の「和えもの」だ。
人生で唯一購入した料理本に「和えもの」はこれしか載ってなかったからだ :-)

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プロフィール
本名・長野眞
フライ・コミュニケーションズ代表

1948年生まれ。1971年上智大学を卒業後、新聞記者、コピーライターの仕事を経験し、シカゴに留学。帰国後「日本国憲法」(小学館)を共同編集したことで本を作る楽しさを知り、北山耕平とともにフライ・コミュニケーションズを設立。斬新でユニークなアイデアと感性で、数多くの作品を企画、編集、執筆する。2009年世界にたった一冊の本をつくる「ニュー・グリーティングブックス」のHPを開設。10年間横浜の小さな森の中で自然とともに暮らし、現在は鎌倉の海辺で閑かな日々を過ごしている。
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