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森はまだ生きているのだろうか
2011.07.27 Wednesday
この森に住みはじめて10年になる。
ここ数年は本来の仕事を再開したので、森に出ることは少なくなっていた。
でもそれまでの6,7年間は一年中毎日朝から外に出て、里山仕事、野良仕事、庭仕事をやっていた。だから四季それぞれこの森のどこで何が起きていて、ぼくが何をしなければならないか、は完璧に把握していた。
ところが3.11以降、森はすっかり顔が変わってしまった。
ぼくが知っている森ではなくなったのだ。
小鳥がこなくなったことは震災の一週間後に「沈黙の春?」という日記で書いた。状況はその後も変わっていない。小鳥たちは皆無ではないけど、ごくたまに1,2羽見かけるだけ。以前のように群れをなして飛んでくることはなくなった。
夏になってからはセミがいない。去年も酷暑のせいでセミが少ないと書いたが、今年は少ないのではなく、いないと言ってもいい。しかし皆無ではない。ときどきカナカナが一羽、ミンミンが二羽とか鳴いているのが聞こえるくらい。数えられるのがさみしいね。東京からきた小学生が「うるさーい!」と両耳をおさえるようなセミ時雨の森だったのに。
この森の蚊は数が非常に多く凶暴であると、日記に書いたことがある。
蚊もいなくなった。おとといは試しにノースリーブのTシャツに半ズボンという無謀きわまりない出で立ちで、森を20分ほど散歩した。去年までなら全身腫れ上がるほど刺されただろうに、両足を一カ所ずつ刺されただけだった。蚊が皆無でないとわかってほっとしたほどだ。
アゲハなどの蝶はわりに見かける。つい最近まで何ヶ月も安全なサナギに包まれていたからではないだろうか。
クモの巣がなくなった。去年までは家の周りを歩くのにも、長い棒を持って巣を払いながらじゃなきゃ歩けないほどクモたちはたくさんの巣を張りめぐらせていた。
今年は低い木陰をのぞきこんで探しても見つからない。皆無だ。
クモ自体が消えたのか、巣を張ってもつかまる虫がいないためやめてしまったのかはわからない。
この森が異常な事態であることは断言してもいい。
街のコンクリートやアスファルトに積もった放射能は雨が流してくれるけど、土や草むらに降る放射能は積もり続けるので危険だとも聞いた。
森は土と草むらの上に乗っかっているものなのだ。
昔教わった生態学の基礎の基礎はこうだった。
「虫や鳥や木が消え始めたら、次は人間が消えていく番だ」
ぼくたちは今、知らされているよりはるかに大きな危機の中で茫然と立ち尽くしているだけなんじゃないか、という思いは日々強くなっている。
オンリー・イエスタデイ
2011.07.22 Friday
ぼくが雑誌の仕事をしていたころ、反原発の記事を書くとボツにされてしまう、それどころか他の仕事まで干されてしまうだろうというのは、皮膚感覚でわかっていた。
その理由は今では誰でも知っていることだ。新聞、テレビ、雑誌には電力会社から莫大な広告料金が流れこんでいたからだった。
書きにくいテーマは「反原発」だけじゃなかった。この国のメディアに言論の自由なんてあるのだろうか、というのがメディアの片隅にいたぼくの疑問だった。
あるとき、いい方法を思いついた。
日本に暮らす外国人が「日本のヘンなところを外国にいるママに手紙で知らせる」というカタチでならいろんなことが書けるかも知れない。
そうやって始めた連載が「デーブ・スペクターの『東京だよ、おっ母さん』」(小学館の『TOUCH』現在は廃刊)だった。ぼくはデーブ・スペクターのゴーストライターをやった。80年代の終わりだった。
原発についても書いた週がある。一部を引用しよう。
こんな地震だらけでいつもガタガタ揺れている島に30以上も原発があるんだもの、狂気じみてるでしょ?
地震のたびにどこかで爆発が起きてるんじゃないかと、いつもヒヤヒヤ。
なのにこの看板。東京のあちこちにこんなピクニックに誘ってるみたいな、のんきな看板があって、地震の際の避難場所が示されている。公園や空き地に行けば、爆発した原発から大量発生する死の灰から逃げられるとでも考えてるのかなあ。
連載ではいろんな分野でかなりラディカルなことも書いたけど、デーブがテレビで定着させつつあった「天真爛漫なイメージ」が記事を和らげてくれた。
この方法はうまくいった(気がした)ので、次は週刊文春に場を移して「デーブ・スペクターのチャンネル・サーフィン」として再開させた。
連載中「もんじゅ」が臨界に達しお祝いしている日にも、記事を書いた。
夢の原子炉とうたわれ、先進国が一斉に飛びついた高速原子炉だったが、実験で事故が多発しすべての国が撤退したにもかかわらず、日本だけが開発を続けていたのだ。
優秀な頭脳と膨大なリサーチと莫大なお金をかけて、最悪の決定をしちゃうことってよくあるよね。意地にならずにやめちゃえばいいのに。
他人が全員次々と失敗しているのを見て、冷静な大人が学べる一番の教訓は「たぶん自分も失敗する」ということだと思うけど。
その後の「もんじゅ」の運命はご存知の通り。
こんなふうにいろいろと苦労をして「反原発」の記事を書いてきたけど、読者の反応はまったくと言っていいほどなかった。田原総一郎さんが最近語っていたが当時「朝まで生テレビ」で原発問題をテーマにした回は、極端に視聴率が低かったそうだ。
日本の人たちは原発に関心がない、とぼくも痛感していた。
今夜放送の「朝生」は原発をテーマにするらしい。
たぶん大変な視聴率になると思う。
今回の取り返しのつかない大事故で、多くの日本人が原発問題に大きな関心を寄せてくれるようになった。喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのか、ぼくにはわからない。
今日の日記は80年代の終わりから90年代の半ばにかけて、ぼくがゴーストライターをやったころの話。ほんの昨日のお話だ。
「交流」は危険思想だ
2011.07.15 Friday
『アップル宣言』(98年)という本には、世界を変えたクレイジーな人たちがたくさん登場する。アインシュタイン、ディラン、キング牧師、ガンジー、ピカソなどなど。
トーマス・エジソンもそのひとりだ。巻末にそれぞれの人物を短い文章で紹介したのだけど、エジソンについてぼくはこう書いた。
●トーマス・エジソン(1847-1931)発明家。20世紀を電気エネルギーの時代にした重要人物のひとり。「交流という考えは危険だ。電気は直流であるべき」との彼の思想を今、重く受けとめる人も少なくない。
交流(alternating current)の考えを弄ぶのは、時間の無駄だ。誰もそんなもの使いっこない。交流は危険すぎる。直流(direct current)こそ安全なのだ。
エジソンがそう主張したにもかかわらず、世界の電気は交流中心に突き進んだ。
このエジソンの言葉は「未来を予見できなかったヴィジョン」の代表のように、20世紀を通して嘲笑されてきた。
しかし、一カ所で発電しそれを交流で広い地域に送電すると、やがてそこに権力が生まれ、支配構造が生まれ、やがてその権力は暴走を始める。
その耐えられない実例をぼくたちは今体験させられている。
今回の事故を教訓として、いつかは小さなコミュニティで発電し、直流で蓄電し、直流のままコミュニティ内で使っていく、という時代がやってくるのかも知れない。
そのときはエジソンのあの言葉は「未来の未来を予見したヴィジョン」として讃えられるのかも知れない。
『アップル宣言』のメッセージは、2年前のブログで全文を読めます。
(死の灰の)雨に濡れても
2011.07.09 Saturday
三上正芳さんは近所の幼稚園の園長さんだ。ひさしぶりに一緒にワインを飲んでいて、三上さんがぼくに自転車を貸してくれることになった。
ありがたい話だった。3.11以降ぼくは外出も減って、あきらかな運動不足。体力が落ちているのを実感していたので、この夏は体を鍛えなおそうと考えていたからだ。
そして自転車がやってきた。凄い自転車だった。
「ルイガノのバイクで、コンポーネントとしてDeoreが装備されている」
三上さんが教えてくれたことを書いているだけで、ぼくは自分が何を書いているのか、意味がわかっていない :-)
とにかくこんな自転車、乗ったことがない。
さしあたっては早朝の涼しい、車通りの少ない時間に練習を始めようと決めた。
ところがこのところ早朝に小雨が降ることが多く、まだ路上デビューをしていない。
ぼくは昔から小雨程度なら傘もささずに外出するような男だったのだけど、さすがに放射能含みの雨に打たれる気がしなかったのだ。
『明日に向って撃て!』(69年)は、自転車が発明されたばかりの自転車黎明期という時代背景の映画だった。ポール・ニューマンがキャサリン・ロスを自転車に乗せて走り回るシーンがとてもロマンティックだった。バート・バカラックの名曲『雨に濡れても』が流れていた。
雨つぶがぼくの頭上に落ちてくる
サイズの合わないベッドで
足がはみ出た男のように
なんだかしっくりしないことばかりの気分だ
--- "Raindrops keep fallin' on my head"
(訳/南風椎)
明日の朝は晴れているといいな。
でも小雨だったらもう出て行ってもいい。わずかな放射能ごときに、いつまでも楽しみを奪われているのもつまらないからね。
デーブ・スペクターのダジャレ
2011.07.05 Tuesday
デーブ・スペクターはTwitterで大量のダジャレを連発し、たくさんの人たちを笑わせたり困らせたりしてきた。それが今回一冊の本になり(幻冬舎)話題になっている。
北山耕平が電話でこんなことを聞いてきた。
「例のデーブのダジャレは南風椎が書いてるの?」
違う、違う。ぼくは何ひとつ書いてないよ。
デーブ本人からもこんなメールがきた。
「南風さんの影響が反映されてます」「まるで南風さんが書いたようなもの!」
違う、違う。これはぼくの本じゃない。
どうしてこんなことになったんだろう?
オーケイ、ひとつだけは認めておこう。
若いころのぼくはダジャレや言葉遊びが大好きだった。
ハエ・シイというペンネーム自体が言葉遊びだ。
そんなころデーブとはほとんど毎日一緒にいた。ぼくのダジャレ好きがデーブにいくらかの影響を及ぼしてしまったらしいことにはうすうす気がついていた。
でもこの本に収められたダジャレにはぼくはまったく関与してません :-)
さてこの本。
ダジャレがぎっしり詰まった本文ページより、ぼくは最後の10ページが面白かった。「あとがき」でデーブはTwitterやBlogやFacebookについての見解を書いている。
Facebookについて「スーパーの伝言板の方ががよっぽど洗練されてる」と書いていて、笑ってしまった。
用意したダジャレやジョークを話すデーブより、ふだんのなんでもない会話をしているデーブの方がずっと面白い。
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本名・長野眞
フライ・コミュニケーションズ代表
1948年生まれ。1971年上智大学を卒業後、新聞記者、コピーライターの仕事を経験し、シカゴに留学。帰国後「日本国憲法」(小学館)を共同編集したことで本を作る楽しさを知り、北山耕平とともにフライ・コミュニケーションズを設立。斬新でユニークなアイデアと感性で、数多くの作品を企画、編集、執筆する。2009年世界にたった一冊の本をつくる「ニュー・グリーティングブックス」のHPを開設。10年間横浜の小さな森の中で自然とともに暮らし、現在は鎌倉の海辺で閑かな日々を過ごしている。
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