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一塁手が、だれ?
2011.10.29 Saturday
永く語り継がれるだろうWシリーズが終わった。
セントルイス・カーディナルスが優勝してぼくもごきげんなので、昨日お約束した"Who's on first?"の翻訳文をアップロードします。
20年以上前に趣味で翻訳し、それっきり封印していた「一塁手が、だれ?」
一度読んでもわからない。二度三度読むとわかってきます。
ちょっとでもおかしかったら、笑ってやってください。
アボット&コステロが録音した"Who's on first?"のレコードは、野球の名誉の殿堂入りした唯一のレコードになっています。
一塁手が、だれ?
(訳/南風椎)
A バッド・アボット C ルー・コステロ
A なんだか、おかしいよな、最近の野球選手って、変な名前のやつばかりだ。セントルイスのチームなんて、ダレが一塁で、ナニが二塁、三塁なんて、シラナイヨ・・・
C ぼくもそれ、知りたかったんだ。セントルイスの選手たちの名前、教えてくれる?
A 今教えただろ? ダレが一塁で、ナニが二塁で、三塁なんか、シラナイヨ。
C ちょ、ちょっと待って。あんたは本当に選手の名前を知ってるんだよね?
A うん。
C そう、じゃあ、一塁手はだれ?
A うん。
C ねえ、ぼくは一塁ベースにいる選手の名前を聞いたんだよ。
A ダレ。セントルイスの一塁にいる選手の名前。
C だれ。
A 一塁にいるやつさ。
C ねえ、あんたが聞いてるのかい? ぼくに。
A おれは聞いてなんかないよ。お前に教えてるんだよ。ダレが一塁手だって。
C 聞きたいのはぼくだよ。だれが、一塁手だって?
A それがやつの名前。
C それがやつの名前?
A うん。
C まったくもう、いいから早く教えてよ。
A だれ?
C 一塁を守ってるやつさ。
A ダレ。
C 一塁手だってば。
A 一塁手はダレだよ。
C (なんとか冷静な口調をたもって)このチームに一塁手はいるよね。
A もちろん。
C だったら、一塁手の名前がなにかって教えてよ。
A 違う、違う。ナニは二塁手。
C 二塁がだれなんて、聞いてないってば。
A 一塁が、ダレなの。
C それをぼくも知りたいんだよ。それがなにかって教えてほしい。
A だめじゃないか。勝手に選手の守備位置を変えちゃ。
C (怒りはじめて)守備位置なんか変えてないよ!
A まあまあ、落ち着けよ。
C なにが名前なの、あの一塁手は。
A ナニが名前なの、あの二塁手は。
C 二塁がだれだなんて、ぼくは聞いてない。
A 一塁が、ダレ!
C 知らないよ!
A そいつは三塁手だ。やつの話をしてるんじゃないよな?
C (頼むように)ねえ、いつになったら三塁まで行けるの?
A お前さっき、三塁手の名前を言ったぞ。
C ぼくが名前を言った? だったらその三塁手はだれ?
A (まるで最初からやり直すように)一塁が、ダレなの。
C お願いだよ。一塁からは離れておくれ。
A じゃあ、お前はおれにどんなことを聞きたいわけ?
C なにが名前なの、あの三塁手。
A ナニが名前なの、あの二塁手。
C まったくもう、二塁手がだれだなんて聞いてない。
A 一塁が、ダレ!
C 知らないよ。
A&C (一緒に)そいつは三塁手だ!
C (気をとりなおして)たしか、外野手もいるよね?
A もちろんさ。
C セントルイスの外野は、いい選手ぞろいだよね。
A まったく、すごい。
C レフトの選手の名前は?
A ナゼ。
C おかしいなあ、たしか、ぼくが質問したような気がするけど。
A そう、たしか、おれは答えたような気がする。
C さあて、レフトはだれなの?
A 一塁が、ダレなの。
C もう、内野から出てきてくれ!
A だったら内野手の名前を言うなよ。
C (強い口調で)ぼくが知りたいのは、レフトの名前がなにかなんだよ。
A 二塁手が、ナニだよ。
C 二塁手がだれかって聞いたあ?
A 一塁が、ダレなの。
C 知らないよ!
A&C (一緒に)そいつは三塁手だ!
A なあ、もう少し気楽にしようぜ。
C で、レフトの名前は?
A ナゼ。
C だからねー。
A おお、そいつはセンターの選手だ。
C 待って。このチームはピッチャーもいるはずだね?
A ピッチャーぬきじゃ、いいチームはできっこないよな?
C どうだか。ピッチャーの名前を言ってみて。
A アシタ。
C 何時に?
A 何時ってなんのことだよ?
C あしたの何時に教えてくれるのかってことさ。だれがピッチャーか。
A いいか、よく聞けよ。ダレがピッチャーじゃない。一塁が・・・
C (興奮してくる)もし一塁がだれ、とでも言ったら腕を折ってやるぞ。
A だったらどうしておれに質問するんだよ。
C 知りたいんだよ。ピッチャーの名前がなにか。
A 二塁手がナニでしょ。
C (ため息で)知らないよ。
A&C (一緒に)そいつは三塁手だ!
C キャッチャーは?
A いるよ。
C キャッチャーの名前。
A キョウ。
C キョウね。で、アシタが投げると。
A おお、ついにわかったな。
C そうか、セントルイスの野球は二日がかりってわけだ。
A しょうがないだろ? おれにどうしろって言うの?
C あんたは分かってるだろうけど、ぼくっていいキャッチャーだよね。
A わかってるよ。
C 一度セントルイスでプレイしてみたいな。
A ほお、だったらおれが話をつけられるぞ。
C ボールを捕りたいな。アシタが投げる日にぼくが捕る。
A うん。
C アシタがボールを投げる。すると打者の野郎ったらバントでくる。
A うん。
C その野郎がバントすると、ぼくはいいキャッチャーだし、自分で一塁に投げてアウトにしたい。そこでボールを拾う。で、ぼくは、だれに投げる?
A やっとはじめて正しくしゃべってるぞ、お前!
C ぼくは自分のしゃべってることが、まるで理解できないよ!
A いいじゃないか、ともかくお前の言ってることは正しい。
C ぼくは、一塁に投げる。
A そう。
C それを、だれが捕る?
A その通り。
C ソノトーリ。
A その通り。
C ぼくはボールをソノトーリに投げる。
A ダレに、投げるんだよ。
C ソノトーリ。
A その通りに、正しい意味で言葉を話しな。
C なあ、それはぼくが言いたいぞ!
A 怒るなよ。まあ、怒らないで。
C ぼくはボールを一塁に投げる。
A それを、ダレが捕る。
C だれでもいいよ。
A わかってるね! もう大丈夫だ。怒るなよ、楽しくやろう。
C ぼくがボールを投げると、どんなやつだか知らないがそいつはボールをすくいあげてしまう。そこでランナーは二塁に向って走る。
A ほお。
C ダレがボールを拾う。で、ナニに投げる。ナニが投げる先はシラナイヨ。すぐにボールは回ってアシタに返ってくる。うわーい、トリプルプレイだ!
A やったな。
C さあて次の打者は大きなフライをセンターに高く打ち上げたぞ。ナゼ? シラナイヨ。知っててたまるか、コンチクショー。
A え、今なんて言った?
C コンチクショーって言ったんだよ!
A おお、そいつはショートストップの選手だ。
Who's on first?
2011.10.28 Friday
なんというゲームだったんだろう。テキサスとセントルイスの間で争われているWシリーズの第6戦が今終わった。こんな凄まじい野球、見たことがない。
明日もセントルイスで開かれる最終戦が、ほんとうに楽しみだ。
昔々、セントルイス・カーディナルスにWhoという変な名前の選手がいたらしい。
それにヒントを得て"Who's on first"という漫才が作られ、アボット&コステロのコンビが演じて大ヒットした。
「一度聞いただけじゃさっぱりわからない。二度三度聞くうちに少しずつわかってくる」
ラジオ時代の漫才だ。ルーズベルト大統領が笑い転げたという噂も広まり、おりからの野球ブームにも乗って、アボット&コステロは大スターになっていった。
映画『レインマン』で自閉症のダスティン・ホフマンがいつも"Who's on first?"とつぶやいていたのをご記憶にある人も多いと思う。
漫才史上の最高傑作と呼ばれるこの漫才を、実はぼくは聞いたことがなかった。
『レインマン』を観たあと、気になったのでテープや台本を取り寄せてみた。
めちゃくちゃに面白かった。
時代を超えた面白さとスピード感があった。
そして無謀この上ないことに「これ、日本語訳してみよう」と思ったのだ。
時代を超える笑いなら、国境も超えてくれるかも知れない。
発表するつもりも、まして本にするつもりもなく、まったくただのチャレンジに何日もかけ「一塁手が、だれ?」という翻訳を仕上げた。
それっきり忘れていたんだけど、今日のセントルイスの試合を見ていて思い出し、古いファイルブックから探し出して読んでみた。
一度読んだだけじゃ、わからない。二度三度読むとわかってくる :-)
長い翻訳なので、数日うちに載せるかも知れません。
やっぱり載せないかも知れません :-)
セントルイスのスタジアム(1980)
写真の球場のすぐ横に作られた新しい球場で現在Wシリーズが行われています。
Stay hungry. Stay foolish.
2011.10.25 Tuesday
どこかにあるはずなんだけど、と思っていたら本棚の隅から出てきた。
70年代半ばに出た『ホールアース・カタログ』の「最終版」と打たれた『ホールアース・エピローグ』だ。
傷んではいるけど、まだ持ってたんだね。
このカタログの裏表紙に印刷されていた言葉が「Stay hungry. Stay foolish.」
発行人のステュワート・ブランドからの「ラスト・メッセージ」だった。
しかし地球上にこのカタログの存続を必要としていた若者は非常に多かったため『ホールアース・カタログ」はこの号のあとも次々と発行されることになる。
今回の死で「Stay hungry. Stay foolish.」を世界に広めたスティ−ブ・ジョブスと、この言葉を生んだステュワート・ブランドとの出会いは、60年代にブランドが主催したトリップス・フェスティバルでジョブスがグレイトフル・デッドらの音響助手を務めたのが最初とされてきた。
しかし年代的に見ると、ジョブスは当時まだほんの少年だったはず。
今日発売されたという彼の伝記にはそのあたりのことは書かれているのだろうか?
余談だけど、日本のメディアではJobsを「ジョブズ」と表記することにはっきりと統一されたようだね。
ネットを見ていても「ジョブス」と呼ぶ人と「ジョブズ」と呼ぶ人との間に、あきらかな世代格差があって面白い。ジョブスとジョブズ。まあたいした違いではないし、ぼくは長年使い慣れている「ジョブス」で押し通しています :-)
眺めのいい部屋だった
2011.10.16 Sunday
こないだは『アップル・マニフェスト』を読みに大挙して訪問者があったが、今日は7月末に書いた日記『森はまだ生きているのだろうか』を読みにくる人たちがたくさんいる。
どこかで話題になっているのだろうね。
今日もこの森について書いておきたい。
この半年間に起きた、もうひとつの悲しいニュースだ。
ブログのトップ写真に使っているサンルームの写真は3,4年前に撮ったもの。
実は窓からの眺めは今はもうすっかり変わってしまった。
10年間、コナラを中心とした巨木に囲まれて生きてきた。「平和とは大きな木の下のシェルターのこと」という教えそのままの暮らしだった。
その巨木の多くが、切られてしまったのだ。
ぼくよりはるかに年長の巨木たちだ。
都会から森がどのようにして消えていくのかを、日々窓から目撃している。
『森はまだ生きているのだろうか』でぼくはこう書いた。
昔教わった生態学の基礎の基礎はこうだった。
「虫や鳥や木が消え始めたら、次は人間が消えていく番だ」
どうやらぼくも遠くない時期にこの森を離れることになりそうだ。
次をどうするかなんて、まだ何も決まってないけど。
よく晴れた日に巨木たちを見上げ、チラチラときらめく木漏れ日を見ながら考えごとをするのが好きだった。ブッダも菩提樹の下でこんな木漏れ日を見ていたんだろうね。
この写真は数年前、光を虹化するレンズで撮ったもの。
ぼくの目に木漏れ日がこう見えているわけじゃありません :-)
森の小径があった
2011.10.12 Wednesday
前回の日記で体調がよくないことを書いたら、多くの人たちからお見舞いや心配の声をいただきました。メールやメッセージ、あるいはtwitterやmixiやfacebookで。数が多すぎてどなたにもご返事をさしあげていません。ごめんなさい。
ぼくのことを子どものころからよく知っているある方は、ブログを読んで驚き、大量の食料品を送ってくれました。みなさん、どうもありがとう。
とても励まされました。
ゆっくりと体力を回復させていくつもりです。
「悲しいことやトラブル」が何か、を聞いてきた人も少なからずありました。
今日はこの半年間に起きた悲しいことをひとつだけ書いておきます。
ぼくの家にきたことがある人は、駐車場から玄関まで木々の間を抜けてくる小径があったのをおぼえてらっしゃると思います。
あの小径が消滅したんです。木々も全部。
桜、梅、柿、茶、しだれ桜、タラ、みかん、銀杏などなど。
木々の剪定は木の種類、剪定の目的によって時期が異なるので、季節季節にそれぞれの木に登ってノコやチェーンソーで枝を落としていたため、一本一本の木に思い出があります。
夏の暑い日に熱中症で倒れたこともありました。
10年間家族同様に生きてきた木々がいっぺんに消えてしまったのはショックでした。
マンションが建つことになったようです。
もちろん大家さん(地主さん)には当然の事情とやむをえない思いがあってのことだし、ぼくが口をはさめるようなことではありません。
伐採の現場は見ていません。おそらく土木工事の人たちが重機を使って(なんの感慨もなんの祈りもなく)根こそぎ切り倒し、運び去ったのでしょう。
やる瀬ない思いです。
写真は秋がくるたびに楽しみをくれていた紅葉と金木犀の花。
この二本の木も今はもうありません。
ジョブスの死からのメッセージ
2011.10.07 Friday
8月の末にtwitterでこんな写真を紹介し「ジョブス、こんな状態だったんだ。感謝にたえません」とつぶやいた。CEOを辞任した2日後の写真だった。
近いうちに何が起きるのかあまりに明白な写真だったので、ブログには載せなかった。
ブログには書いていない話がもうひとつある。
実は半年前から悲しいことやトラブルが相次いで、ぼくも(ジョブスほどではないけど)激ヤセした。体重が10キロ以上減ってしまった。食欲がまったくないのだ。
痩せたせいで体力もなくなり、立ちくらんで昏倒したりすることもある。
危ないよなあ。独り暮らしだし。
あまり健康な状態とは言えないね :-)
ジョブスの死には各界から多くの言葉が寄せられている。
ぼくにはジョブスの死は、歴史的世界的な大きなトラブルシューティングに取り組み続けた果ての、壮絶な戦死に見える。
彼に比べるといかにもつまらないトラブルで気を失ったりしている自分が情けない。
昨日ニュースを聞いて、ぼくが個人的に彼から受けとめたメッセージはこうだった。
「小さなつまらないトラブルのせいで死んだりしないように」
昨日今日とこのブログにアクセスが殺到している。
多くは以前の日記『アップル・マニフェスト』と『アップルはなぜアップルなのか』を読みにくる人たちだ。twitter上で噂が広まったようだ。
まだ読んでいない方はこちらでお読みください。
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本名・長野眞
フライ・コミュニケーションズ代表
1948年生まれ。1971年上智大学を卒業後、新聞記者、コピーライターの仕事を経験し、シカゴに留学。帰国後「日本国憲法」(小学館)を共同編集したことで本を作る楽しさを知り、北山耕平とともにフライ・コミュニケーションズを設立。斬新でユニークなアイデアと感性で、数多くの作品を企画、編集、執筆する。2009年世界にたった一冊の本をつくる「ニュー・グリーティングブックス」のHPを開設。10年間横浜の小さな森の中で自然とともに暮らし、現在は鎌倉の海辺で閑かな日々を過ごしている。
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