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小津安二郎の墓
2012.09.20 Thursday
鎌倉に引っ越してきて以来、ずっと行きたかった場所をやっと訪ねることができた。
映画監督、小津安二郎のお墓だ。
円覚寺に「無」とだけ彫られた彼の墓石があった。
(はじめまして、南風椎と申します。ぼくは日本や日本人が嫌いになりそうなニュースが耳に入ってきたときなどに、あなたの作品のビデオをよく観ています。日本や日本人を好きでいたいからです。戦争中の中国で、南京虐殺のときあなたが日本兵のひとりとして南京にいたという話を聞いたのですが、ほんとうでしょうか? あなたの映画には軍人や兵隊が一度も登場しないことと、関係があるのでしょうか? この「無」という字は「戦争の無い世界」No War のNoを訴えたあなたの祈りに見えるのですが、違いますか?)
円覚寺を出て、帰りに鎌倉駅近くの、小津が好きだった天ぷら屋に寄り、小津が好きだった天丼を食べ、小津が好きだった熱燗を飲んだ。
どうでもよいことは流行に従い
重大なことは道徳に従い
芸術のことは自分に従う。
------- 小津安二郎
酔芙蓉
2012.09.12 Wednesday
家から海辺までの散歩道は、両側の家々がきれいな花を咲かせてくれていて、目を楽しませてくれる。でもさすがこの暑い夏は花の数も種類も少ない。
そんな夏に不思議な花と出会った。
あるお宅の門のそばに立つ木に咲いている花々の色が、朝は白いのに午後は全部ピンクに変わっているのに気がついたのだ。はじめは見間違いだと思った。半日で色を変える、そんな不思議な花があることを、ぼくは知らなかった。
酔芙蓉(すいふよう)と呼ばれる花だそうだ。
芙蓉の一種で、酒で頬を赤く染めていく女性になぞらえてつけられた名前だとか。
朝白く咲いて昼ピンクになり、夜は赤くなって、翌朝はしぼんでしまう。
一日だけの花。
朝はしぼんだ赤い花がらのそばで、その日の新しい白い花が咲き競っている。
八重の酔芙蓉と一重の酔芙蓉があるらしく、道沿いのそのお宅は門の両側に八重と一重の二種類の木が立っている。酔芙蓉がよほど好きな方なんだろうね。
いのちの洗濯
2012.09.07 Friday
夏の終わりの数日間を、東伊豆の温泉宿でのんびり過ごした。
部屋にオ−シャンヴューの露天風呂があった。
一日に10回以上入浴したと思う。
朝は海にのぼってくる朝日を湯舟から眺め、夜は月の光を浴びた。
昼は入道雲がもくもくと立ち上がってくる遥か上空に絹雲がすっと流れているのを眺めていた。
夏と秋がお互いを気にもせずに空で同居していた。
風呂に疲れたら部屋で昼寝をした。
波の音が心地よかった。
巨大なウォーターベッドで寝ているような感じだった。
「今日も外出なさらないんですか?」と仲居さん。
「こうやってぐうたらごろごろする目的できたんです」
結局一度も宿から出なかった。
食事もおいしかった。手のこんだフレンチっぽい和食。
でもぼくは毎食刺身と焼き魚がついてくるのがうれしかったな。
以前テレビでお医者さん(?)が「温泉が健康にいいなんて、科学的根拠はないんです」と言っているのを聞いて仰天したことがある。何百年もの間先祖たちが信じてきたことを否定するのだろうか?
温泉は間違いなく健康にいい。
ぼくの中のDNAがそう言っている。
今回の小旅行は「踊り子号」の予約から宿や部屋の手配を完璧にアレンジしてくれた人のおかげだった。ぼくはそのプランに乗っただけ。とても感謝している。
出かける前に「旅はいのちの洗濯ですよ」と言ってくれた人もいた。
その通りだった。仕事の疲れ、夏の疲れから甦ることができた。
宿を出て帰りの電車に乗るために駅に着いたとたん、大音量の雷鳴が空を転がって、滝のような雨が降ってきた。派手なお見送りだった :-)
写真は湯舟から見た夜明け。
魔法(マジック)
2012.09.03 Monday
ジェリー・ガルシアが50才になろうとするとき、ローリングストーン誌がインタビューし「あなたが50年も生きてきたことについてどう思いますか」と質問した。
ジェリーは「一億年生きてきた気がする」と答えていた。
冗談を言ったわけではないと思う。彼は実感を正直に語ったに違いない。
前回の日記で『あなたは美しい』を紹介した。この本はもちろん大好きなイルカに捧げて書いたものだけど、見本が届いてひさしぶりに読み直したとき、これはジェリー・ガルシアに捧げた本でもあったことを思い出した。ジェリーに会った翌年の94年、彼が亡くなる前年に出た本だった。
彼の70回めの誕生日から命日までの、いわゆる「ジェリー・ウィーク」にオンデマンド化されたことに、ぼくは感無量になった。
今年2月に『デッド・ムーヴィー』の仕事を始めてすぐにこのDVDの発売日が4月25日、ぼくの誕生日だと聞かされた。『ムーヴィー』が終わると14枚組DVDボックスの仕事が始まり、その発売日は8月1日、ジェリーの誕生日であると知らされた。
グレイトフル・デッドのライブDVDを見続けた半年間が終わった「ジェリー・ウィーク」に『あなたは美しい』がやってきたのだ。
もちろんどれも、偶然にすぎない。
でもジェリーやデッドの仕事をすると、いつもかならずこんなふうな不思議な偶然が起きていた。デッド・コミュニティでは「魔法(マジック)」と呼ばれている。
魔法(マジック)
「デッドヘッド用語集に『魔法(マジック)ほど絶対不可欠な言葉は他にない」と、ブレア・ジャクソンは1980年に書いている。
「アーサー王の魔法使いマーリン、まじない師、シャーマン、心霊奇術、これらすべての意味をもつ言葉。ほとんどすべてのデッドヘッズがグレイトフル・デッドと他のバンドを区別するときに、最終的にたどりつく言葉だ」
ミッキー・ハートは次のように説明している。
「すごくいい夜には、魔法が訪ねてくる。そうでない夜には、理由はわからないが、それは遠くにいる。ミュージシャンとして私たちにやれることは、自分に正直になり、一生懸命演奏して、すべてが噛み合って、魔法が私たちを見つけてくれるのを望むだけだ」
(中略)
ショーとかショーの周辺で起きる「魔法のような」偶然のことを、デッドヘッズはよく口にする。日常よくある幸運な偶然が、デッドとデッドヘッズの存在によって強まっているように思われる。このコミュニティがまるで、偶然にレンズの焦点を合わせる作用をしているかのようだ。
「最初、私たちは魔法はジェリーのギターから、らせん状に飛び出してくるものだと思っていた」とアヴァロン・ボールルームのマネージャーが回想する。
「そのうちにわかったのだけど、魔法とは私たちのことだったんだ」
------ 『スケルトン・キー グレイトフルデッド辞典』(工作舎)より
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本名・長野眞
フライ・コミュニケーションズ代表
1948年生まれ。1971年上智大学を卒業後、新聞記者、コピーライターの仕事を経験し、シカゴに留学。帰国後「日本国憲法」(小学館)を共同編集したことで本を作る楽しさを知り、北山耕平とともにフライ・コミュニケーションズを設立。斬新でユニークなアイデアと感性で、数多くの作品を企画、編集、執筆する。2009年世界にたった一冊の本をつくる「ニュー・グリーティングブックス」のHPを開設。10年間横浜の小さな森の中で自然とともに暮らし、現在は鎌倉の海辺で閑かな日々を過ごしている。
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