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デッドヘッズとは
2012.10.29 Monday
西丸文也の散骨の会には、デッドのジャケットを着て行った。
骸骨の絵を刺繍した服で行くのは顰蹙を買うかもという思いもあったけど、グレイトフル・デッド(感謝する死者)の服なら西丸さんは笑ってくれるだろう、と10年以上着ていなかったジャケットをひっぱり出したのだ。
散骨の船の上で若い男の子から、
「デッドヘッズなんですか?」と声をかけられた。若干ためらいながら、
「そうなんです」と答えた。
365回デッド・ショーに参加した人がやっと満一才の誕生日を祝ってもらえるというハードコアな世界で、デッドヘッドを自称するのは勇気がいる。ぼくはたった7回しかショーを体験していないのだ。
日本でもデッドヘッドという代わりに「デッド好き」と自称する人が多い。
デッドヘッズとは何か、についてブレア・ジャクソンが書いている。
「グレイトフル・デッドは好きだけど、自分はデッドヘッドではありません」
これまでにいったいどれほどたくさんの人がそう話すのを、耳にしてきたことだろう。まるで「デッドヘッド」という言葉は「ハンセン病患者」と同義語であるかのようだ。
これはつまり、彼らがみんなストレート・メディアによって伝えられるデッドヘッズ像を信じ込んでいるということだ。要するにストーンして、絞り染めの服を着て、フォルクスワーゲン・バンを運転する、髪をしばった、パチョリの匂いのする、おかしな名前の、野菜ブリトーやクリスタルを売っている、単純な会話しかしないクレイジーな連中。
(中略)
デッドシーンは見た目がアナーキーなので、たくさんの人たちを怖がらせ、98%の人々はデッドを抱きしめる可能性を奪われてしまう。自分をデッドヘッドと呼ぶ人はもっとはるかに少なくなるのだ。
何回ショーに行ったことがあるか、が問題なのじゃない。車に何枚のステッカーを貼っているとか、バンドが「イレヴン」を最後に演奏したのがいつだったか知っている、というようなことでもない。デッドのすべての曲の歌詞なんか知らなくてもいい(メンバー自身よく間違えるのだし)。ナカミチ・ドラゴン・テープデッキをもっていなくてもいい。過去5年間、一度もショーに行ってなくたっていい。
デッドヘッドとは何かを考えてみたのだけど、たぶんそれは精神や態度における、ある種の開放感のことではないだろうか。そしてバンドやシーンを共同体的に祝福すること。しかし、どちらも真実とは言いきれない。
ショーには行くし、テープも集めるし、自分をデッドヘッドと呼んでいるが、シーンは嫌いで、ショーを楽しんだこともほとんどなく、もしかしたらひとりやふたり好きじゃないバンドメンバーがいる! などという連中もたくさんいる。いろんな人々がいるし、もちろんそれが、大きな秘密なのだ。
結局こういう言い方になってしまうのは、あまりにも逃げ腰だろうか。もしあなたが自分はデッドヘッドだと言うのなら、そうなんじゃないか? もしあなたがそれを認めたくないと言うのなら、そうじゃないんじゃないか?
---- 『スケルトンキー グレイトフル・デッド辞典』(工作舎)より
西丸文也の散骨
2012.10.26 Friday
『ジョン・レノン 家族生活』の写真家、西丸文也さんが亡くなってもうすぐ一年がたつ。彼の遺骨は一年間奥さんの早苗さんとともに過ごしてきたが、昨日、散骨の会が開かれた。海への散骨は西丸さんの強い遺志によるものだった。
横浜港のぷかり桟橋を船が出た。
家族や友人たち20人がキャビンに乗り込むと、ピンク・フロイドのアルバム "Division Bell" が流れていた。この音楽で見送ってほしいというのも彼の遺志だった。
1988年にピンクフロイドが日本で最後の公演をしたとき、ぼくは西丸さんと一緒に代々木競技場に行った。始まって数曲目に彼は「もうがまんできない」と言って通路に出て踊りはじめ、結局最後まで踊りまくっていた。ピンクフロイドが好きなことは知っていたけど、どれ位好きなのかを知らなかったぼくは、驚いて眺めていたものだ。
船のキャビンには西丸さんの骨が細かい粉末に砕かれ、紙袋に詰められていた。水溶性の紙なのだそうだ。ペンを渡され「故人へのメッセージを書いてください」とのこと。
ぼくに順番が回ってきたとき、ちょうど流れていた歌のタイトルをぼくはそのままメッセージとして書きこんだ。
A Great Day for Freedom!
ベイブリッジをくぐって30分も航行したあたりで、停船した。そのころ音楽はジョン・レノンのアルバム "Imagine" に変わっていた。
朝からずっと曇り空だったのに、突然太陽が出て、波間がキラキラしはじめ、デッキに出て西丸さんの骨が詰まった紙袋をそれぞれが海に落とした。
たくさんの花を流し、西丸さんが好きだった酒を海に注ぎ、黙祷をした。
とてもさわやかな会だった。
これから先世界中どこで海を見ても、西丸さんを思い出すのだろうね。
西丸さん、いい旅を。
流鏑馬 on the beach
2012.10.19 Friday
鶴岡八幡宮では年に3回ほど流鏑馬(やぶさめ)が開かれているようだ。
その日の鎌倉は交通が大渋滞するほど多くの人たちがやってくる。ぼくは行ったことがないが、観客が多すぎて流鏑馬はろくに見れないとも聞いた。
ビルはシアトル生まれ、材木座育ちのアメリカ人で、萬屋さんの常連。通訳で案内することもあるとかで、流鏑馬は、horseback archery と訳しているそうだ。馬の背に乗ったアーチェリー。わかりやすいね。
「馬に乗っているので、遠い的より近くの的に当てる方がずっと難しいという説明もしてあげるんだ」
そんな話を聞いていたら、やはり常連の大東さんが、
「材木座海岸でも流鏑馬が見れますよ」と、写真を見せてくれた。
「鶴岡八幡とは流派が違うけど、こちらはまだ広く知られていないので客も多くなくて、いい場所で見れます」
これはいいなあ。スケジュールを調べて次は見逃さないようにしよう。
流鏑馬とサーフィンを同時に見れるのがファンタスティックでいい。
Photo by Yuji Ohhigashi
光明寺 お十夜
2012.10.16 Tuesday
光明寺は歩いてすぐなので、ときどきでかける浄土宗のお寺だ。
昨日まで「お十夜」が開かれていた。
門前から本殿までおびただしい露店が並び、ちゃんと歩けないほどの人出だった。
人ごみの中で何人もの人から声をかけられた。ぼくも鎌倉に顔見知りが増えたんだね。
「お十夜」は、500年続いているという法要。戦国時代に戦乱と飢餓で地獄のようだった人々の安寧を願って始まったものとも聞いた。戦国時代に生まれて「なんて時代に生まれちゃったんだ」と嘆いた人たちもたくさんいたんだろうな。
500年たった今も世界中で戦乱が続いていて、この日本でも何やらきなくさい匂いが漂ってきている。「なんて時代に生まれちゃったんだ」とぼくも思っているので、念仏が轟く本殿前で(浄土宗の信者ではないのに)両手を合わせて、南無阿弥陀仏を唱えた。
本殿から横をすりぬけて回廊を行くと、ぼくが好きな一角があって、本殿前と違ってほとんど人もいない。季節には蓮の花が咲く池があって、その向こうに聖閣が立っている。「お十夜」だからか静かにライトアップされていてきれいだった。
眺めていると、吉沢さんにばったり会った。萬屋コミュニティの常連で、電気屋さんだ。吉沢さんの話だとこの池は昔は蒲が生い茂っていたとか。
子どものころから毎日このお寺にきてどんな遊びやいたずらをしていたかを話してくれていたとき、通りすがりののお坊さんが「あのライトアップは吉沢さんがやってくれたんですよ」と教えてくれた。吉沢さんは照れくさそうに笑った。
子どものときから遊んできたお寺で、大人になったら法要のお手伝いをする。
幸せな人生だよね。
僕と僕の猿以外の誰もが
2012.10.10 Wednesday
「僕と僕の猿以外の誰もが何か隠しごとをもっている」
ビートルズ時代のジョン・レノンの歌。軽快なロックンロールで好きだったが、このタイトルはなんとも被害妄想的な気がしたものだった。
ビートルズ解散後、ニューヨークでベトナム反戦運動をやっていたジョンとヨーコは、自分たちが四六時中尾行され盗聴されていると、メディアに訴えた。
FBI長官が取材に答えて「たかが芸能人を尾行したりしない。FBIはそんなひまな組織じゃない」と語っていた。
そのときもぼくはふたりの被害妄想かも知れないと思っていた。
被害妄想ではなかったとわかったのは、ジョンが殺されて何年もたってからだった。
アメリカでは情報公開法が進んだので、当時のふたりの日常が完全に尾行盗聴されていたという資料が出てきたのだ。くだんの元FBI長官も事実を認めた。
世間で被害妄想と呼ばれていることは、実はしっかりした事実に基づいた想像であることが多い、という説を裏付けてくれた話だった。
日本の情報公開法はさっぱり進まないが、ネットの普及もあって「隠しごと」ができない時代がやってきた。
にもかかわらず、いまだに「隠しごとはずっと隠しおおせる」と信じている人たちが一部にいて、国家的なトラブルも個人的なトラブルもそんな人たちの周辺で起きている。
ジョン・レノンの72回めの誕生日に。
萬屋 ゴンゾー 田村隆一
2012.10.01 Monday
材木座バス停の近くに「萬屋」という酒屋さんがある。まあどこにでもある普通の酒屋さんだ。このあたりはバーとか飲み屋がないので、夕暮れると近所の人たちが集まってきて店の冷蔵庫からビールや酒を出して、店の前や店の中で飲んでいる。そんな酒屋さんもどこにでもある。
「萬屋」が広く知られている理由のひとつは、その昔詩人の田村隆一さんがここの常連だったことだ。名エッセイストでもあった田村さんはこの店についてたくさんエッセイを書いている。
田村さんは朝からやってきて飲んだりしていたらしいが、ぼくはさすがに朝から行くことはなく、浜辺で夕日を見たあとなどに週に何度か立ち寄ってビールを飲んでいる。田村さんがここで知り合った常連たち(バスの運転手さんとか)は、ぼくが最近知り合った常連たちとよく似ている。店のご主人夫妻に聞いてみたら「もう世代は変わってますけど、みんな似たようなご近所さんたちなんです」と笑っていた。
年輪を重ねたサーファーたちが多いというのも、昔と違っているところだろうか。
田村さんは4回めに結婚した奥さんと材木座に住んでいたそうだ。でも亡くなるとき見送ってくれたのはまた別の女性だったとか。背が高くて、かっこいい詩を書くかっこいい詩人だったので、女性にもモテたんだね。
萬屋の店内にはゴンゾーという名の黒い犬がいる。
はじめのうちは名前を呼んでも口笛を吹いても振り向いてもくれず、つれなくされていたのに、何週間もたったある日、ぼくが店に入っていくと尻尾をふって迎えてくれゴロリと横になって白いおなかを見せて甘えてくれた。あれはうれしかったな。ゴンゾーが受け入れてくれたことで、萬屋コミュニティにも受け入れてもらえた気がしたものだ。
見よ、
四千の日と夜の空から
一羽の小鳥のふるえる舌がほしいばかりに、
四千の夜の沈黙と四千の日の逆光線を
われわれは射殺した
---- 田村隆一『四千の日と夜』より
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本名・長野眞
フライ・コミュニケーションズ代表
1948年生まれ。1971年上智大学を卒業後、新聞記者、コピーライターの仕事を経験し、シカゴに留学。帰国後「日本国憲法」(小学館)を共同編集したことで本を作る楽しさを知り、北山耕平とともにフライ・コミュニケーションズを設立。斬新でユニークなアイデアと感性で、数多くの作品を企画、編集、執筆する。2009年世界にたった一冊の本をつくる「ニュー・グリーティングブックス」のHPを開設。10年間横浜の小さな森の中で自然とともに暮らし、現在は鎌倉の海辺で閑かな日々を過ごしている。
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